2020年1月10日〜1月26日

 

田中奈津子:ANDROGYNOS

 2007年に京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了した田中奈津子(たなか・なつこ / 福岡・1981~)は、在学中より個展やグループ展などに取り組み、近年では個展「Being series」(ギャラリー白kuro / 大阪・2019)や個展「into Being」(d3 Gallery / 北九州・2019)、「ポートレートモード:黒宮菜菜・田中奈津子」(2kw Gallery / 滋賀・2019)などを開催。2020年には3月に開催される「VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」(上野の森美術館・東京)に出品するなど、現在までに精力的に制作・発表活動を続けています。


 田中は2017年のギャラリー・パルクでの個展「きょうの壺プレミアム」において、包装紙や広告・カレンダー等を素材に、2016年12月半ばから年越しの一ヶ月に渡って毎日制作した「壺」の絵を展示しました。これは、当初は身近な日常の中で不意に得たイメージを膨らませ、それらをモチーフに絵画・版画のテクニックを組み合わせた絵画制作を続けていた田中にとって、「壺」あるいは「毎日」という制約を手がかりに、それまでの感性や感覚に強く頼る絵画制作ではなく、五感・記憶・経験・感情・体調・身体・道具・時間などなど、多くの要素を素材として自覚し、選択することで絵画に取り組む機会となりました。


 また、その後の2018年の春から秋にかけて取り組んだ「Being series」は、田中がアトリエの近くの市民活動センターを借りて制作したもので、「制作の度に画材を運び込み、決められた時間の中で出来ることを探し、時間がきたら筆を止め、また全てをまとめて帰る」を何度も繰り返したものでした。周囲の環境や状況という制約を手がかりに、そこから絵画を立ち上げるこの制作は、田中が『画材も、形式も、制作時間も、場所も外部に任せて、私はそこでできることをして、それらが結びついて絵画になればいい。』、『この絵は私だけの選択によって成立したものではなく、環境の中で仕立てられたものだから。』と語るように、自身の絵画制作へのまなざしや絵画への思考を更新する機会となったといえます。


 本展は田中の新たな取り組みとなる「ANDROGYNOS(両性具有)」シリーズにより構成されるものです。本シリーズ作品の制作にあたり、田中は現在まで何度もヌードクロッキーに出かけ、男女のモデルを大量に描いています。アトリエではそのクロッキーから線を抽出し、キャンバスに描き写しますが、それは1枚のクロッキーから線を抽出し終えるとキャンバスを回転させ、また新たな線を重ねるというもので、結果、1枚の絵画には何枚(4〜20枚ほど)ものクロッキーからの線が重なり、その画面は次第に抽象性を帯びていきます。田中にとってこのプロセスは、そのものが目的ではなく、「見たものを描く」行為を「画面の出来事」へと転換するための「きっかけ」として機能しているように思えます。またそのプロセスを辿るうちに、男:女、具象:抽象、現実:虚構、存在と不在、線と面といった、様々な項が綯交ぜとなった画面が現れることとなり、作品は両義的ながらもひとつの存在:絵画へと自立しはじめます。


 「ANDROGYNOS」シリーズに至る近年の田中の取り組みは、いくつかの制約を仮設することで制作の自由を封じるのではなく、それにより自分自身にかかる制約(環境や身体、絵の具の材質、支持体の構造、音や時間など)の存在を確かめ、認めるための手続きとして必要とされたのではないでしょうか。また、それは同時に「描く」というとてもささやかで脆い自由を見出し、「描くこと」でそれら制約や矛盾を「絵画」に結ぶことができることを知るための契機となったのではないでしょうか。「ANDROGYNOS」の初期作品群で構成される本展において、田中のこれまで/これからの活動を概観いただく機会となるでしょう。
 なお、会期中には、聞き手に真武真喜子氏(Operation Table キュレーター)をお招きしたアーティスト・トークを行ないます。これにより新作「ANDROGYNOS」についてのお話とともに、近年の田中の作品の変遷やそれぞれの取り組みの関わりを一連で知ることが出来るのではないでしょうか。

ステートメント

男と女、具象と抽象、現実と虚構、形あるものと形のないもの、、、

異なる事物を結びつけながら変容させていく力が像を結んでいく

 

ーつまりこれは「愛」の絵です。


田中 奈津子



関連イベント

アーティスト・トーク

■1月18日[土] 17:00~18:30 予約不要・入場無料
  聞き手:真武 真喜子(Operation Table キュレーター)

作家略歴

田中 奈津子|Tanaka Natsuko

https://natsunique.tumblr.com

 

1981年 福岡県北九州市生まれ
2005年 京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業
2007年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了

個展

2019年 Being series/ギャラリー白(大阪)
into Being /d3 Gallery(北九州) 他
2018年 Open Working "Being series" /京都市岡崎いきいき市民活動センター
2017年 きょうの壺 プレミアム/Gallery PARC(京都)
アブストラクト食う女/ギャラリー島田 deux(神戸)
2016年 繋ぐ、結ぶ、続く、絵/アートスペース虹(京都)
2014年 わたし壷世界/アートスペース虹(京都)
2013年 Fantasy for Adults/アートスペース虹(京都)
2012年 豊かな絵/アートスペース虹(京都)
2011年 デコレーション/アートスペース虹(京都)
2009年 私湯/MEM(大阪)
2007年 京都市立芸術大学作品展第三会場学内展
2006年 孤島群/複眼ギャラリー(大阪)
ギャラリーDen 58(大阪)
2005年 水辺の人/GALLERY ANTENNA(京都)
2004年 The golden time in Cambodia/GALLERY ANTENNA(京都)
2002年 WORLD/岡田屋本店ギャラリー(三重)

グループ展

2019年 「ポートレートモード」 黒宮菜菜、田中奈津子/2kw Gallery(滋賀)
2018年  「壺の中のダイアローグ  ―陶と絵のあいだで―」石黒紀子、田中奈津子/ギャラリー恵風(京都)
 第1回M展/d3ギャラリー(北九州) 
2016年 二人展「SPECTRA」 鷹木朗、田中奈津子/ギャラリー恵風(京都)
2015年 掲示板アート 片淵綾香、山本恵、田中奈津子/高尾小フェス2015(京都)
2014年 つくってみたかったもののおみせ/同時代ギャラリー スタジオ1928(京都)
2013年 「悦ばしき知覚」 関口敦仁、山部泰司、松井沙都子、田中奈津子/galerie16(京都)
2012年 「あれから、そして、これから」 山本俊夫、藤原康子、田中奈津子/ギャラリーモーニング(京都)
つくってみたかったもの/CAFÉ PULPO(京都)
2010年 京都オープンスタジオ
2008年 ペインティングの恋人/海岸通ギャラリーCASO、MEM(大阪)
2007年 作品中/galerie16(京都)
in my room/FUKUGAN GALLERY (大阪)
58号室展/ギャラリーDen 58(大阪)
ART AWARD TOKYO/行幸地下ギャラリー(東京)
2006年 GENSE ART EXHIBITION/建仁寺禅居庵(京都)
2005年 山本恵と2人展「花と人」/ボーダレスアートギャラリーNO-MA(滋賀)
ドローイング5人展「ANOTHER STORY」/GALLERY ANTENNA(京都)
2004年 ひと展/京都市立芸術大学大ギャラリー
日本カメラ祭 in 八木町/旧新聞配達所
2003年 現代美術インディペンデントCASO展/海岸通ギャラリーCASO(大阪)

受賞歴

2015年 マネックス証券Art in the office 2015審査員特別賞

パブリックコレクション

大分県立美術館 京都第二赤十字病院  
 
作品画像

《きょうの壺》  
2016〜2017 ミクストメディア

作品画像

《きょうの壺》  
2015 ミクストメディア
撮影:Tomas Svab

作品画像

「繋ぐ、結ぶ、続く、絵」展示風景
(アートスペース虹・2016)展示風景
撮影:Tomas Svab

作品画像

《プリズムの壺#1》 
2016 キャンバス、油彩、アクリル

作品画像

「into Being」展示風景
3 Gallery(北九州)
2019年

作品画像
作品画像

「Being series」 展示風景
ギャラリー白(大阪)

2019

 

 

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