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Artists Interview

フィールドワークをもとに、写真をベースとした作品を発表する守屋友樹。
ギャラリー・パルクでは、2011年よりグループ展や個展('15 '18年)を開催してきた守屋は、2021年の「すべ と しるべ 2021」プロジェクトにおいて、南丹市八木町に残る旧酒蔵であるオーエヤマ・アートサイトでインスタレーションによる作品を発表。この展示は2022年の「すべ と しるべ (再)2021-2022」において、ギャラリー・パルクの展示空間にて再構成をおこないました。
インタビューでは、これまでの活動におけるテーマの変化や、テキストや音を含む作品の構成要素について伺いました。(取材日:2022年6月)

フィールドワークより / 2022, 諏訪湖
これまでの活動

ーこれまでPARCで何度か展覧会を開催してきましたが、ステートメント、テーマについて教えてください。

これまで継続してパルクで展示する機会があって、今回で個展は3回目、昨年の「すべとしるべ 2021」(オーエヤマ・アートサイト)も含めると4回目になります。その中で2回目の個展からステートメントが変わってきて、テーマもはっきりしてきました。【*1, 2】

これまではサスペンスをテーマに作品制作をしてきました。宙吊りとなった存在を扱おうと、六甲山にいる猪を対象としながらも写真に写さず、気配が感じられるようなアプローチを模索していました。しかし、制作を進めるうちに、目には見えないものを想像することや感じることに興味を持つようになり、「不在」をテーマにする方が自分には合っているのではと思うようになりました。

なぜ「不在」という言葉を選んだのかというと、阪神大震災の時に撮った自室の写真【*3】を見返したことがきっかけでした。当時6歳だった時に撮った写真で、地震そのものは写ってないけど、地震による痕跡として物が散乱した状況が写っているものです。「地震は写らない」ということが強く見えてきたことにとても驚いたのと同時に、当時のことを思い出している自分がいました。そこから「不在」から、想像力を働かせたり、感情を揺さぶられたり、言葉が生まれたりするのがすごく面白いなと思っています。僕にとって不在は鏡を覗くようなもので、虚像という死のイメージから生ある世界を見返すような体験だと思っています。

そこで、これまで受けてきた写真教育とは違う文脈・価値観が見つけられた気がしました。そういう写真と初めて出会えたということがあって不在をテーマとして扱うようになりました。2018年に発表した北海道の作品でこのテーマを押し出せたと思っています。2021年から今回の「すべとしるべ 2021」での発表作品《蛇が歩く音》もその現れです。

  • 【*1】2018年「シシが山から下りてくる」展示風景>Exhibition Info
  • 【*2】2015年「gone the mountain / turn up the stone: 消えた山、現れた石」展示風景 >Exhibition Info
  • 【*3】阪神大震災の時に撮った自室の写真

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*2

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《蛇が歩く音》について

この作品を作ろうと思ったのは、10年ぐらい前の冬に長野県の諏訪湖に行ったことがきっかけです。その時、湖が凍っていて、近寄ってみるとゆっくりパキパキ鳴っている音が聞こえてきたのですが、割れているもの、鳴っているもの自体は見えないことにすごく面白さを感じました。京都に戻ってその現象を調べ、その後に何度も行くようになりました。【*4,5】 あの時に聞こえた音をもう一度聞くということが、ある種の「不在」に関わるものだと思ったんです。二度と聞こえない音をもう一度聴こうとすることや、「聞こえない音を聞こうとする」ことについて考えているうちに、湖の音自体が楽器のようなものだったり、スピーカーみたいなものであったり、湖という場所が記録メディアのような存在にも思えてきました。記録的側面と器楽的な側面、両方あることに魅力を感じています。

そうしてリサーチしながら湖にまつわる物語や個人的な話を聞きながら、水に関する作品を作っていくっていうことをやっていると、次第に「聞こえない音を聞く」というテーマから焦点が離れていきました。しかし、遠く離れていきながらも、リサーチを続けていくことで「音」のことに立ち返っていることにも気がつきました。まるで「鏡を覗くと反射した先に湖がある」ような体験が面白いと思いました。そこからもこの作品は器楽的なものでありながらも記録的、記憶的なものが内包されている作品だと思っています。

ー記録的なものとはどういうことでしょうか。

例えば...ちょっと整合性はあるのか不安ですが...写真を撮ることは、目の前に泉があった時に、湧き出る水をコップで掬うようなことだと思っています。つまり、コップにはある一定の情報が含まれた器だといえます。それをさらに別の小さな器に移し変えたりすることで多くの情報がこぼれていってしまう。僕が人から聞く話や資料にあたることは、コップからこぼれてしまったものから源泉を想像する試みだと思います。そこが不在に対する考えと通じたものかもしれません。

僕は美術大学で非常勤講師をしているのですが、阪神淡路大震災から27年経ち、震災を体験していない年代の学生を相手に実習授業をしています。歴史を教える授業を担当しているわけではないのですが、どうすればかつて起きたカタストロフを想像することが可能なのか考えさせられます。僕自身、戦争を知らない年代です。戦争を知ろうと思い、人から聞くことが出来るならば聞きたいと思って、広島や長崎の原爆資料館、沖縄の平和記念資料館に行ったりしていました。そこでは体験者が語る講話があり、参加すると大体の方は高齢の方です。もし、彼らがこの世を去ってしまったらどのようにして戦争被害や加害を次の世代へ語り継ぐことが可能なのか想像してしまいます。僕は語り継ぐ事の困難な時代に向かっていると感じているからこそ、先ほど話したコップの水(あろうと無かろうと)を想像できるような作品を作りたいと思っています。

  • 【*4】フィールドワークより / 2022, 諏訪湖
  • 【*5】フィールドワークより / 2019, 御頭祭

*4

*5

ー守屋さんの作品には写真をベースに、今回であれば鏡や壺といった物質的なもの、テキスト、音を展覧会の構成要素として選ばれていますが、その選び方や作品の手法について教えてください。

フィールドワーク、資料、人から聞いた話などであっても、僕自身の個人的な体験や興味に立ち返りながら作るようにしています。

凍った湖からどこからともなく音が聞こえて、氷が割れている様子は全く見えないのに動いている、鳴っていることに驚きや怖さが今回の制作するきっかけでした。湖には何か喚起させるものがあるように思えたことと、湖そのものが器楽的なものであるように思いました。僕はかつて聞いた音をもう一度聞こうと何度も通っているうちに湖の歴史や文化などに目を向けるようになっていきました。なかでも面白い話は、凍結した湖面が割れるのを見て吉兆を占うことや、亀裂を神さまが通った後として捉えていることでした。その神さまの姿は蛇の姿をしているということで、蛇にも関心が向き、同時進行で調べていました。

蛇は他の生物と姿形が異なる上、生態もかなり特殊なようです。毒を持ち、交尾も六時間以上と長い。人がはじめて蛇の様子を見た時を想像すると、生命そのものの力強さ(死や生を象徴するように)を想像させるに十分な存在だと思いました。
蛇は死と生を象徴する生物と改めて見直すと、僕自身の制作テーマである「不在」とどう繋げられるかを意識していました。

  • 【*6】「蛇が歩く音:walk with serpent」(2021, オーエヤマ・アートサイト)展示風景

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すべ と しるべ 2021 「蛇が歩く音|walk with serpent」オーエヤマ・アートサイトでの展示について

「オーエヤマ・アートサイト」の空間を意識しているけれども、その空間に寄せるようなことはしなくていいかなと思っていました。今までは(写真を)印刷して貼るだけなど、一度きりで破壊的な行為に近いことをしていましたが、これまでの制作方法を見直し、再展示できるような制作がしたいと思うようになりました。あの空間だからできることをやるのではなくて、作品を中心に空間構成を意識しました。あの大きな酒蔵にどう向き合うか。無理に物量を増やすことやサイズを大きくすることなどをやめて普段通りの感覚で選ぶことにしました。

ひとつだけ意識していたのは、1階の写真が展示されてた場所です。採光がすごくきれいな場所で、何か透明だけどイメージがあるものをおきたいと思いました。【*7】

ー作品では「青」が象徴的に扱われていました。

旧酒蔵の空間でどんな時間を過ごせるのかを考えて、「青」の時間を構成していくことにしました。 1階の青い部屋から始まって腕の写真に繋がり、2階に上がると板間の部屋があり、コンクリートの青い部屋につながっていくという、全体的に青色の印象が強い展示【*8】になっていたので、モノクロームな体験を意識して、白地のものを排した色のない作品をつくり。構成しました。他にも壺の作品の青い釉薬、青インクのテキストなど、多くが青を中心としています。なぜ青なのか。『BLUE』というデレク・ジャーマンの映画や、イブ・クラインのブルーなどが想像しやすいと思いますが、いろんな作家が青を使用していて、そこから僕にとって青に死的なイメージを感じています。映像の作品の中にも書いているんですけど、深夜から明け方にかけて、世界が青くなる時間があって、浮遊感があるというか、死から生、生から死というサイクルを想像させます。だから、自然の現象の中には、その生と死を考えさせてくれるような時間があり、それがちょうど青い時間なのではないかと思っています。

 

*「すべ と しるべ 2021 #02 守屋友樹」映像> ウェブ公開

 

  • 【*7,8】「蛇が歩く音:walk with serpent」(2021, オーエヤマ・アートサイト)展示風景

*7

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ー諏訪湖にはもう何度も行っているのですか?

この10年のあいだ何度も通っています。去年まで冬にだけ行っていたので、色の体験もなかったし、静かなイメージが強かったんですが、冬以外にも行くようになって気づいたのですが、春夏になると外来魚対策で釣った魚をそのまま放置しているようで、湖自体はとてもきれいなのですが、強烈な臭いと死んでいる魚がたくさん転がっているという状況に混乱させられます。けど、その状況を体験した去年の夏以降から、また違った角度から見るようになりました。きれいと思っていたことの裏側というか、下支えにしているものが、ある種死であることに驚きました。それ以来、美しさを下支えするものは何であるかを考えるようになりました。

最近は珪藻(湖面に発生する藻の一因となっている)についても書きたいなと思っています。農薬にはリンなどが使われているのですが、リンはサリンの原料にもなるもので農薬中毒とサリンによる症状は同一のもののようです。父親がサリン事件の現場にいたということもあって、そのことを思い出しながら何か書けないかと思っています。また「青」への興味から、珪藻の「緑色」が気になりはじめました。緑は新鮮さのイメージがあるけれど、死までのグラデーションを想像させる色のようです。これから緑について調べつつどう関われるか考えていくつもりです。

  • 【*9】フィールドワークより

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すべ と しるべ(再)2021-2022 /PARCでの展示について

同じ作品を2回展示するのは初めてのことでした。八木で展示した時の印象に近寄るとは思っていなかったです。周りの環境や空間の文脈とは別で起動できていると実感ができたのはポジティブな体験だと思います。

前回のように青色を中心に空間を構成していくというよりも、器楽的な側面と記憶的な側面を強くしていきたいと思いました。それが表れている作品が、壺とオルゴール、テキスト、これらは次につながるものだと思っています。

八木での展示は「walk with serpent」と、蛇を象徴するイメージは今現在も残っていて、ともに生きているという意味を込めたものでした。今回のタイトルは「only the voice remained」です。【*10】 八木の人々のインタビューなどを書き起こしてた時に、彼らは生きているけれど、肉体から離れた声がそこにあるということの不気味さみたいなものが衝撃的でした。肉体から切り離された声があることを改めて意識すると、生と死が切り離されている体験がそこにあるようで、「声だけが残っている」というタイトルにしようと思いました。 写真を扱っていると観察者的な眼差しになりがちなのを自覚しています。その眼差しを引き受けながらも写す対象の世界へ参加していくような作品づくりをしていく方が、今後楽しくなりそうと予感しています。自分が必ず撮らないといけない、そう思い込むのを意識的に解除していっていますね。

ー 個々の作品について

壺の作品は、湖がスピーカーのように思えたことから作ったものです。【*11】湖自体が何かの容れ物のようなかたちをしているだろうと思うと、水が収まっている状態の器。言葉やかたちとして表すなら壺ではないかと。そうやって決定させました。写真でできなかったことができたというのはすごく嬉しいですね。絵付けされているものは、蛇にまつわるモチーフです。シルエットを画像加工をしているので抽象化されていますが、壺自体は具体的なオブジェなので、抽象化されたイメージにしています。影が貼りつくようで面白いですね。立体のオブジェは、蛇を殺すと世界が生まれるという話をもとにしています。鏡は蛇の目を象徴するものとして扱われていて、目を壊す行為を実際に行いました。

今回新しく制作したオルゴールの作品は、氷が割れる音の音階を解析して、実際にオルゴールの音階におきなおしたものです。【*12】さっきも言いましたが、器の移し替えのようなことをやっています。

オーエヤマ・アートサイトでの展示を再構成しつつ、新しく録音した音を入れたり、去年の会場で蛇の話をしてくださった女性の話だったり、八木町のお寺の住職さんの話を展示しています。【*13】
さらに、「湖」というテキストがあって、これは僕自身が湖で体験した話と、その湖で出会った男性の話を、一人の人間に置き換えて書いています。小説のようなテキストです。

  • 【*10-13】すべ と しるべ(再)2021-2022「蛇が歩く音|only the voice remained」(2022, Gallery PARC)展示風景

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展示後のワークについて

ー守屋さんは以前から展覧会を自分で撮影してアートブックを制作されていますよね。

展覧会や、パフォーマンス作品を本の中で展覧会をしなおす、パフォーマンスしなおすというのをコンセプトに作っているアーティストブックです。

PARCで初個展をした2015年にやってから、その展覧会の記録を使って、自分の本の中でももっかい展覧会をやってみようっていう。それがずっと続いてますね。

最新号の#5「蛇が歩く音|walk with serpent」は、会場記録の写真や、展示で出していなかった写真、インタビューから聞き取りした話を文字起こししたテキスト、自分が書いたテキスト、映像で字幕にしているテキストが含まれています。これまで作ってきた冊子のなかで書籍的な内容となっているアーティストブックです。30部数限定で会場で販売しました。

 

*スポンティニアスリプロダクション #5 「蛇が歩く音|walk with serpent」等、オンラインストアで取り扱っております。【*14】

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ー映像でも記録されているんですね。

そうですね、インスタレーションの展示をやってきて、そのなかで人が見ている様子とかのふるまいを記録した方が、身体性が映像のなかに見えてきて、肌触りがわかればいいなって思って映像を撮っています。作品の一部に、音声のある映像を使うこともあるので、どうしても写真では取りこぼしてしまう内容かなと思って、映像でできることをちゃんと記録しようと、ここ数年やってますね。

ーそれはコロナ禍と関係なく取り組まれてきたんでしょうか?

関係なくやってましたね。定点でできることを、無理せずやっていこうという感じです。あくまで自分でできる範囲で。初めて見る人に向けてつくる記録として撮っています。

 

*守屋友樹による記録映像>ウェブ公開

 

  • 【*14】スポンティニアスリプロダクション #5 「蛇が歩く音|walk with serpent」

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