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Artist Interview
菅かおるArtist Info

ギャラリー・パルクでは2014年、2019年に続き3回目の個展となる「microcosm」を開催している菅かおる。新作では、絵画作品の延長としてモビールの制作に取り組んだ菅さんにお話を伺いました。(取材日:2023年9月上旬)

「microcosm」展示風景(2023, ギャラリー・パルク) 会場撮影:守屋友樹
これまでの活動について

ーGallery PARCでは3回目の展覧会になります。これまではどのような展示をされてきたのでしょうか?

2014年に三条御幸町にあったPARCで「アクロス ザ ユニバース」というタイトルで展覧会を開催しました。【*1】全長14メートルの襖サイズの屏風(「両面自立画」と呼んでいます)が空間を横断するような展示で、照明の一部に青などの色を入れました。空間がガラス張りだったので、昼間は自然光、夜は照明の光で変化をつけました。屏風が空間の中心にあるので、その間を人が回遊して絵を見る。いろんな角度から見ると絵の景色が変わるっていうのをやりたかったんです。

  • 【*1】「アクロス・ザ・ユニバース」(2014, Gallery PARC)展示風景>Exhibition info.

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ーそのような作品は2014年以前から作られていたのですか?

いえ、そんなことはなくて、こういうことをしてみたいという想いがずっとあったので個展の機会を頂いたときに提案させてもらいました。ずっと日本画家として活動してきて、額に入れて壁に展示することしかやってなかったのですが、以前から屏風や襖の平面の重なりで生み出される空間性に興味がありました。尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏に回ると酒井抱一の「夏秋草図屏風」が描かれているという構造になった屏風があります。この作品が好きで、そういう作品を見て日本画を描きたいと思ったという憧れがありました。
ただ、屏風といっても二曲一艘とかオーソドックスな形ではなく、3面になってたりとか。ちょっとかわった形の屏風形式にして、いわゆる屏風と呼ばれる形式の範囲の中で何ができるかを考えてみたいと思いました。

その後、PARCでは2019年に、はがみちこさん(アート・メディエーター)の企画で「光と海」という展覧会を開催しました。【*2】2013年の個展「slow fire 蝋燭の灯でみる火の絵」(Gallery Antenna/京都)で蝋燭の灯のみで作品を鑑賞するということをしたのですが、はがさんがその個展を観て興味を持ってくださいました。「光と海」は2期構成で、第1期に真宗佛光寺派長性院、第2期にPARCで展示しました。蝋燭の灯りだけで作品を鑑賞する時間をつくりました。

ー光の当たり方や見る角度によって、絵の見え方が変わるということを作品に取り入れてきたのですね。そのような展開ができることも、日本画の画材で制作を続けておられる理由なのでしょうか。

そうですね。もともと大学で日本画コースを選んだのは、画材の扱い方や技法を学びたいと思ったからで、卒業後は日本画以外の選択肢もありました。それでも日本画を選んだのは、箔や岩絵の具など素材そのものを使って絵画の画面を作っていく強みがあるんじゃないかと思ったからです。その当時も、水をテーマに作品を制作していましたが、西洋的な遠近法を用いたり、写実的に描くというのではなく、箔で水の反射を表現できるのが面白いと思っていました。水というモチーフは表現が幅広く、かつ捉えどころがないから難しいのですが、日本画の素材を使って描けばさまざまな表現ができるのではないかと思いました。もともと日本画や日本美術には、例えば雲の表現に金箔を使って空間を表現したり、群青を装飾的に塗って川を表現するというようなことがあると思います。それは、素材自体を見た時に現れるイメージ、象徴性というものが人の根源的な感覚にあって、それを暗黙のルールみたいに使うということが日本画の技法ではうまく確立されているように思います。日本画にはそのような人間がもともと色や素材に対して持っているイメージをダイレクトに使う面白さがあると思います。また日本画に限らず、そのような色や素材にある象徴性やイメージは、中世の絵画であったり、世界中の絵画表現の所々で見つけることができるのが面白いと思うところです。

  • 【*2】「光と海」(2019, Gallery PARC )展示風景>Exhibition info.
       撮影:田中和人
  • 【*3】展覧会「光と海」開催後に制作・発行された菅かおる作品集「Origin」。
  •    オンラインストア[parcstore]で取り扱っております。>ONLINE STORE

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個展「microcosm」について

今回の展覧会タイトル「microcosm」は“小宇宙”という意味です。大学の頃、金魚鉢を真上から眺めた風景を描いた「まるい小宇宙 Round Microcosm」という絵を描きました。その時に「小宇宙 microcosum」という言葉を初めて作品の題名に使いました。その頃から作品はだいぶ変わりましたが、本質的にそこに戻るような作品をつくりたいと思いました。水を描いていると宇宙的なものと繋がっていくように感じるんです。 小さい世界の一部を拡大して見ていくと小さいものに大きいものが全部含まれてるような感覚になります。そういった感覚を想起させたくて今回の展覧会のタイトルをつけました。【*4】

  • 【*4】「microcosm」(2023,Gallery PARC)展示風景

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ー新作としてモビール作品と、《circle》シリーズがありますね。

平面の《circle》【*5,6】は新作で、今回の展示の構成を考えて作ったシリーズです。これまで1枚の絵に凝縮して入れ込んでいた部分部分が会場全体に散らばっているというイメージを持っています。そして、そこにモビールが浮いています【*7】


今回は、PARCのコンクリートの壁面や窓から入る自然光を生かした展示にしました。絵にモビールが重なったり、影が出るようにライティングしているので、できれば異なる時間帯で楽しんでいただきたいです。

ー モビールは以前から興味があったのですか?

そうですね。ずっとモビールをつくってみたいという思いがありました。アレクサンダー・カルダーが昔から好きで、実際につくりたいと思ったのは、コロナ禍でのパルクの[m@p]プロジェクトの時です。結局その時は他のものをつくり、ようやく今回やってみることができました。ただ、かなり大きなものになりました。
最初は技術的にどうやってバランスをとるのか等わからないことがあって。計算し尽くされているだろうと思われるカルダーの作品を先に見ていると、全体像をまず考えて作らなきゃと足踏みしてしまいました。でもパーツ作りからやっていくこともできるんじゃないかとアドバイスをもらって。実際、試行錯誤して手を動かしているうちにこの形になりました。

制作工程としては、まず普段通り和紙に絵を描いてそれを切り取ります。最初はアクリル絵具で塗ることも考えたけど、普段の画材を使うことで、会場に展示された他の絵とリンクするので、そうしました。
一枚の和紙ではなくて表と裏の二枚張りにしています。その方が厚くなって糊の強度もでて紙が反らないし、二枚の絵画を貼って表と裏にしているということが私にとって重要な意味を持ちました。
日本画はまず膠を溶く必要があり、チューブからすぐ出せるアクリル絵具と違って時間もかかり、張り合わせる作業や乾燥させる作業などかなり時間がかかりました。
ですので、アクリルや色紙を使うことなども考えましたが試しにつくってみたら良くなくて、やはり普段通りの仕事を手間かけてやるほうがよいと思い直し、今の形になりました。どうして今の形がいいと思ったのか、その時はすぐに説明できないものですが、感覚というか勘を頼りに実現させる形に持って行き、どうして自分がそれを許せるか許せないか、その理由を探っていく作業が作品を作る楽しみだと思いました。

  • 【*5】《circle(spiral)》 2023 / 雲肌麻紙,岩絵具
  • 【*6】《circle(black sun)》 2023 / 雲肌麻紙,岩絵具
  • 【*7】「microcosm」(2023,Gallery PARC)展示風景

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ー立体作品ではなく、絵画作品という位置付けですか?

モビールも私にとっては絵の延長です。絵画とつながっています。
最初はそのようなことは考えずに制作を始めました。絵画か立体かを先にあたまで考えてしまうよりも手を動かしていくことでそれがわかるようになります。たくさんの可能性からなぜそこに行き着くのかというのを考えるのが面白いと思います。

はじめは紙を組み合わせて立体的にすることも考えたのですが、黒や緑の残った和紙に胡粉で描いたら、レイヤー状にきれいにできるから、これを空間に浮かせるのもいいなと思いました。日本画は粒子の大きさで、下にいったり、上にいったりするので、筆跡が見えやすい。胡粉は特に絵画らしい厚みが出ます。一番最初に描いた光の形のものは下の色が透けて見えるようにしました。全部下塗りをしていて、墨や緑、青で下塗りをしています。後ろの絵と重なった時に、絵画の中に描いているものが飛び出ているように見えるとよいなと思っています。
また、もともと日本画には揉み紙という技法があるので、光りやすい絵具を入れ、光の影響を受けやすくしてわざとぐしゃっと揉んで伸ばしてみました。シワが岩肌にも見えますし、色のグラデーションが空間を曲げているようにも見えますし、惑星の表面のようにも見えます。美しくできたグラデーションの和紙をくしゃくしゃにするのは最初抵抗がありましたが、思い切ってやってみたら物質感が出てよくなりました。失敗したものももちろんありますが。この形に辿り着くまで、裏面の色、形含め、様々な選択肢があって迷いましたが、頭でイメージしていたものに近づけたと思います。【*7】

  • 【*8】「microcosm」(2023,Gallery PARC)展示風景

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