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Artist Interview
田中和人Artist Info

「写真による抽象表現の探求」を主題に作品シリーズを展開してきた田中和人。ギャラリー・パルクでは4回目の個展を開催する田中さんに、これまでの制作をふりかえってお話を伺いました。

(取材日:2023年3月中旬)

「Picture(s)」展示風景(2023, ギャラリー・パルク)会場撮影:田中和人

ーPARCでは2010年、2014年、2019年に続き4回目の個展となります。これまでを振り返って、通底していることと、変化してきたことがあれば教えてください。

特に2014年、2019年、そして今回の2023年の3回の展示は、複数のシリーズを同時に展示しているという共通項があります。いままで2008年の「blocks」シリーズから始まり、多くのシリーズを制作してきました。2014年の個展では、新作から習作まで2008年から2014年までに制作した15シリーズをギャラリー内に構成。2019年は、新作「PP」と「pLastic_fLowers Ⅲ」の2シリーズを同時に展示。そして、今回の個展では、最新作の「Picture(s)」シリーズを中心にしながら、これまでの4つのシリーズも同時にギャラリーに構成しました。


新しいシリーズを作る時は、これまで作ってきた複数の作品からの要素を引き継ぎながら、そこに、まったく新しい要素を加えて作品をジャンプさせていきます。なので、全てのシリーズは独立してはいますが、同時に、複雑に重なりあってもいます。つまり、自分にとっては個々のシリーズも作品であるのはもちろん、全てのシリーズが集まった総体もまたひとつの作品だと思っています。そして、その総体を様々な角度から立体的に成長させていくことが僕にとって大切なことです。


数年に一度のPARCでの展示で、このように複数のシリーズを同時に構成することで、新しい作品とこれまでの作品の関係性を視覚的に確認し、まだ見ぬ次の作品へのエネルギーのようなものを得ています。また、このような展示空間にしばらく身を置いていると、どの作品がどの作品より新しく作ったものである、というような時系列的なことはそれほど重要でなくなってきます。各シリーズがそれぞれの作品に影響を受けながら、いままで気づかなかったまったく新しい側面を見せてくれるからです。

 

 

  • 【*1】「high & dry」展示風景(2014, Galley PARC)
  • 【*2】「Self-Dual」展示風景(2019, Galley PARC)
  • 【*3】「Picture(s)」展示風景(2023, Gallery PARC)展覧会情報> Exhibition info.

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ー自身の作品をあえてジャンルで示すとしたら、何と呼びますか?

あくまで、自分では、という視点からすれば、これまで制作してきたすべての作品が写真作品であると言えます。絵画(とくに抽象絵画)と写真との関係を軸に全ての作品は展開されていますが、出発点は、いつも写真です。あるいは、見ること、と言い換えることも可能かもしれません。2015年からの「pLastic_fLowers」シリーズや、2020年からの「PP」、そして最新作の「Picture(s)」など、近年は特に直接的に絵画の要素を作品に組み込んでいますが、絵画を描くことについての作品ではなく、絵画を見るということが一体どうゆうことなのか、という問題を写真を通して取り組んでいる作品、だと言えます。もちろん、それは同時に、写真とは何か、という問題でもあります。

ー絵画をどのように捉えられていますか?

まだ自分がアートを始めるずっとずっと前、商学部の大学生であったころに、アメリカ抽象表現主義の絵画作品を集めた展覧会がセゾン美術館であって見に行った時のことを覚えています。それらの作品を目の前にして感じたことは、僕にもこのように世界が見えている、という共感でした。もちろん、抽象的な絵画なので、実際の見た目とは違うのですが、そうゆう意味での見える、とは違う次元で、見えている、とはっきりとそう感じたことを覚えています。そして、その感覚はずっと心の中に生きていて、一体それはどうゆうことなのだろうと今でもいつも考えています。そして、その答えはいつまでも出ません。常に絵画は、見るものであり続けていますし、見続けています。僕にとって絵画は、現実からもっとも遠く離れた、もっとも現実に近いもの、と言えるのかもしれません。

ーでは、写真はどうでしょうか?

写真の話もまた、僕がいわゆる作品を作り始めるずっとずっと前になりますが。商学部を卒業して、会社に就職したのですが、そのころに、ロバート・フランクの写真を雑誌「SWITCH」で見て、理由もなく直感的に自分も写真を撮らなければと思いました。最初のボーナスを使ってカメラを買って写真を撮り始めました。身の回りのものや、街や、友人などを、ただただ誰に見せるわけでもなく撮っていました。写真を撮り始めてすぐに、これは自分が今までやってきたことの中でもっとも自分にしっくりとくるものだという実感がありました。奇妙な言い方ですが、自分が見ている以上に、カメラが自分らしく世界を見てくれていると感じました。これほどまでに自分に寄り添ってくれたものは無く、写真に救われた気がしました。写真には現実は写らないのですが、非現実が写っているというわけでもなく、その間にある可能性が写っています。僕の作品には常に、見る、ということが核にありますが、それはいつもカメラとの共同作業で、僕の目だけでは作品になりません。カメラが現実と非現実の間のすべての可能性を見ています。

  • 【*4】《Picture(s) #36》2022
  • 【*5】《pLastic_fLowers #25》《pLastic fLowers #34》2015

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ー近年は特に色彩豊かな作品が多く見受けられますが、色について思うことを聞かせてください。

色そのものについての作品は作っていませんし、色彩が豊かな作品を目指しているわけでもありません。色彩に限らず、複数の異なったものが、相互に作用すること(作用している状態)、あるいは、作用したことによって起こることに興味があります。あるいは、異なって見える複数のものが、本当に異なっているのか、異なっていたり、同じであったりする、ということとはどうゆうことなのか、その中間とはなにか、ということを考えることが僕にとって非常に重要です。それは、視覚芸術の形を通じて、この世界の成り立ちを考えることでもあるからです。
視覚的な作品において、色彩は、その問題意識を具現化するのに優れた要素でありながら、自分のコントロールできる範囲をはるかに超えて無限のバリエーションがあるので使っています。また色そのものには形がなく触ることはできず、光で見ることでしか認識できないということも重要です。

ー「PP」や「Picture(s)」で像を持たない光によるカラーフォトグラムを用いることや、「Land」のように色のついた光によって写真に色を付けたり、「光の色」に惹かれているということはありますか?光の色と、絵の具の色との違いなど、思うことがあれば教えてください。

光の色というより、光というもの、そのものにとても惹かれます。光は、写真や、カメラ、そして見ることと切っても切り離せないものです。光に対する詩的なアプローチも、科学的なアプローチも、それらを合わせたようなアプローチも、今後も続けていきたいと思っています。
光の色と、絵の具の色については、光を絵の具のように使ったり、絵の具を光のように使うことに興味があります。最新作の「Picture(s)」ではそれを試みています。

ー「PP」シリーズや最新作の「Picture(s)」シリーズは、支持体であるキャンバスがアクリルボックスに入れられていますが、なにか理由があるのでしょうか?

「PP」や「Picture(s)」では、絵の具と写真(印画紙)という物質をキャンバスという支持体にのせている「物」としての状態があるわけですが、それを最後にアクリルボックスに入れることで、「光」としての状態に近づける意図があります。あるいは、写真に戻す、あるいは、見ることに戻す、という意図があります。見ることによって、写真と絵画が相互に影響する状態がつくりだされ、それによって作品が完成します。それにはアクリルボックスが光のフィルターとして目と物の間に介入する必要があります。
「PP」や「Picture(s)」よりも以前に始めたシリーズは、フィジカルに絵画的な要素が作品の制作過程にあったとしても(たとえば「pLastic_fLowers」シリーズにおける手書きのドローイングのラインなど)、最終的には、それごと写真に撮ることによって写真に戻してから作品としてきました。この最終的に写真に撮るという過程が、最新の「Picture(s)」などでは、アクリルボックスに入れるという過程に置き換わったとも言えると思います。

  • 【*6】《Picture(s) #27》2022
  • 【*7】《PP #15》《PP #22》2020
  • 【*8】「Picture (s)」展示風景(2023, Gallery PARC)

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ー今後の展望、今後取り組んでみたい手法、アイデアはありますか?

ひとつの新しいシリーズができあがると、そこから新しい問いが生まれて、これまでの作品と複雑に繋がりながら、まだ見ぬ次のシリーズの可能性がいくつも生まれます。なので、制作は常に続いていきます。終わりはありそうにありません。その中で、実際に作品になるものはとても限られています。思考とチャレンジを繰り返すことでしか、新しいものは生み出せないので、これからもそうしていきます。


それによって、多くのシリーズが集まった総体、あるいは生態系のようなものを、さらに高次元な集合体にしていければと思います。
そのための一つの要素として、いつになるかは分かりませんが、時間という次元を組み込んだ映像による作品に取り組んでみたいという気持ちが日に日に強くなってきています。

ーどのような環境で制作されていますか?

地域という意味では、京都のスタジオと福岡のスタジオを行ったり来たりしています。大きい作品は京都で作ります。また、写真を作る上で暗室作業が必要な時は、東京の暗室を何日か集中して借りて使っています。複数の拠点を移動しながらの制作は、作品にどうゆう影響を与えているのかは分かりませんが、複数拠点のスタイルは気に入っています。移動するという行為や移動しているという状態がそもそも好きなので。
スタジオでの作業中は、音楽をかけています。RadioheadとBjörkは、もう何十年も大好きで、聴き続けています。基本的にインディーロックを好んで聴いていて、最近好きなのは、Phoebe BridgersやBig ThiefやMitskiやClairoやJay SomやJapanese BreakfastやArlo ParksやYaejiなどで、最もよく聴くのはLong Beardで本当に大好きです。David Byrneもよくかけます。もちろん他にもいろいろ聴きますが。妻の菅かおるとスタジオを共有しているのですが、音楽の好みはそこまで違わないと思うのだけれど、片方がかけている音楽がどうしても気になってしまう時もあります。そんな時は、ラジオを聴きます。WORLDWIDE FMをかけたり、ラジコでサラーム海上のオリエンタル・ミュージック・ショウや、松浦俊夫のトーキョー・ムーンなどをかけると円満に作業が進みます。 Bandcampで検索に検索を重ねて、新しい知らない音楽で気に入ったものを見つけ出すのも好きです。

  • 【*9】《Picture(s) #43》2023
  • 【*10】「Picture (s)」展示風景(2023, Gallery PARC)
  • 【*11】「Picture (s)」展示風景(2023, Gallery PARC)

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