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Exhibition info

地に還る│地から足を離す
小出麻代

2018.9.28. ~ 10.14.

Exhibition View

11 images

Statement

「地に還る/地から足を離す」

 

ある日、 「Oregon Nikkei Regacy Center」という場所に辿りついた。
そこでそう遠くはない昔、私と同じ場所からやってきた人々がこの地で暮らしていたことを 知った。
彼らはJapanese Americanと呼ばれ、 自分達の街をつくった。
いかなる環境下に置かれている間も、 彼らは明日の暮らしの為に手を動かし続けた。

 

彼らが暮らした地面の上を歩いてみる。 日々の暮らしを想像してみる。
この場所で見た景色 、心の中で思い描いた故郷の風景は、 私がいま見ている 、思い出しているものと同じだったのだろうか。
異なる世界や他者に触れることで、 自分の輪郭がはっきり見えたり、 あるいは溶け出すような体験を繰り返したのだろうか。 私と同じように。

 

手を動かし続けることは、祈ることと似ている。

 

彼らが小さな小さな鳥にこめた静かな祈りを、どこまで知ることができるだろう。


小出 麻代

About

 2007年に京都精華大学芸術学部造形学科版画専攻卒業、2009年に同大学大学院芸術研究科博士前期課程版画分野修了した小出麻代(こいで・まよ/1983年・大阪生まれ)は、おもにインスタレーション作品として、シルクスクリーンや写真などのプリント、型抜き成型したシリコンによるオブジェクトなどとともに、ガラス、鏡、電球、糸、紙、落ち葉、枝、石など、私たちの身の回りで目に触れ・手に触れる素材を空間に配します。小出の「つくったもの」と「みつけたもの」は、自身の記憶や体験を出発点に展示空間内に点・線として配されます。その素材・形態・位置・距離・在り方など鑑賞者の様々な焦点によって関係性を見出され、個々の「風景」として、あるいは鑑賞者の記憶や想像を依り代とした「情景」として立ち現れます。


 また、小出はそれらが見出され、呼び出されるための十分な「間」を取ることに注意を払いながら、空間内に「もの」を丁寧に配置しますが、近年では光(と影)、あるいは鏡(と虚像)などによって生じる関係を用いることで、ものと鑑賞者と空間のそれぞれが出会い(すれ違う)「瞬間」を内包させることにも意識を向けているように思えます。こうした空間や素材への意識はそれぞれが含み持つ「歴史」(時間)への眼差しとして、近年では土地やものを始点としたリサーチにも積極的に取り組んでいます。


 小出麻代は「自分がどう生きていくか、どう生きていけるか」を考え続ける中で、「豊かさとは何か」という問いを持ち、様々な場所・土地を訪れ、多くの人々と出会うことに積極的に取り組んでいます。そのひとつの機会として2018年の夏の1ヶ月、ポートランド(アメリカ) でのレジデンスに参加した小出は、短い滞在の中でポートランドの 歴史や風土、人々の暮らしの中に様々な発見を積み重ねます。ポートランドには古くから多くの日本人が移住し、日本人町(Japanese Town)が建設されていたこと。第二次世界大戦時に多くの日系人がトランクひとつで収容所に集められ、そこでの暮らしを余儀なくされたこと。収容所で支給された木材を使って、机や椅子、 ベッドやタンスなどの「生活に必要な実用品」をつくった彼らが、玩 具や遊具、彫刻や絵画などをもつくっていたこと、それらは総じて「CAMP ART」と呼ばれていることなどを知った小出は、とりわけ「小さな鳥のピン」が気に留まりました。そのピンは、見たことのないカタチの鳥もあれば、鶴のカタチをしたピンもあるなど、どれも小さいけれど丁寧な彫刻と彩色が施されていたそうです。


 小出は本展に寄せた手紙の中で『手を動かし続けることは、 祈ることと似ている』と言っています。手を動かすことで今日を明日に繋ぐこと。そうして、より良い明日を想い・願い・祈ること。また、その明日を自ら「つくる」ために、やはり手を動かすこと。そうして懸命 に生きるなかで小さな祈りを込めた彼らと同様に、本展において小 出は、手を動かすことで自身の「生きること」を模索します。


 小出はシルクスクリーンや写真プリント、型抜き成型したシリコンによるオブジェクトなどとともに、ガラス・鏡・電球・糸・紙・落ち 葉・枝・針金など、私たちが日常に目と手に触れる素材を空間に配したインスタレーションを手がけます。小出の「つくったもの」や「つけたもの」は、自身の記憶や体験、あるいは展示空間での発見を取り入れながら会場内に(点)として配されます。ここで鑑賞者は、 素材・形態・位置・距離・在り方などに自身の発見や想像によって関 係性(線)を見出すこと、あるいは記憶を依り代とした情景(面)を見 ることなど、それぞれの時間を過ごすことができます。


 小出は、それらが見出され、呼び出されるために必要と思われる「間」に注意を払いながら、空間内に「もの」を丁寧に配置します。ま た、近年では光(と影)、あるいは鏡(と虚像)などによって生じる関係を用いることで、ものと鑑賞者と空間のそれぞれが出会い(すれ違う)「瞬間」を内包させることにも意識を向けているように思えま す。また空間や素材への意識は、それぞれが含み持つ時間(歴史) への眼差しとして、近年では土地やものを始点としたリサーチにも積極的に取り組んでいます。


 本展において小出は、2階の展示空間に「鏡、1年ほど前に拾った 枯れ葉、枝、シリコンによる独楽」といった要素を配置し、それらを光によって関係させています。3階ではポートランドで制作した、活版印刷により9つの言葉を9葉の紙に印刷し、それぞれに色を関わらせた作品を展示。4階には、2階と同じく鏡と光を用いた作品が拡がりますが、ここでは自然光と関わることで、朝・昼・夕・夜や天気、 鑑賞者の位置によって、それぞれの要素に見いだす関係性が刻々 と変化する様を見ることができます。 小出は展示空間にゆっくりと留まるなかで時間や空間において「見えるもの / 見えないもの」を見据えながら、「もの と もの」や「も の と ひと」の間に生じる関係を想い、手を動かしてきました。それは「見えるもの」だけをすべてとするのではなく、「見えないもの」を 眼差し、想像することや、「見ようとする」自らの動きが目の前の風景 をより豊かなものとすることに気づかせてくれるようです。


 本展において、鑑賞者の皆様にもそれぞれの「豊かさ」を見つけ、つくり出していただければ幸いです。